作物生産技術学
作物・雑草の生理生態的特性の解明と管理技術の開発
雑草植生の適切な管理体系の構築および環境保全への有効利用 |
雑草は農業生産や人間活動に影響を及ぼすことは勿論ですが,自然界では生態系の底辺を支え,また緑の空間を創出して人間社会に癒しを提供するなど,多面的な機能も有しています。そこで,雑草をはじめとした身近な植物の生理や生態を理解して植生を適切に管理しつつ、その機能を応用して環境問題の解決にも取り組んでいます.
水生雑草繁茂の適切な管理法の構築
岡山市南部の河川や農業用排水路では水生雑草の過繁茂が顕在化しており,豪雨時には通水を妨げて内水氾濫が懸念されているため,防除システムの構築に取り組んでいます。同時に競合により駆逐されつつある貴重な在来種の保全手法も検討しています。
陸生雑草の新規防除技術の開発
伸びた雑草を刈ることは大変な労力を要します。防草シートは経年劣化による破れ,モルタル等の被覆用固化資材は亀裂が生じやすく,いずれ雑草が発生してしまいます。そこで,地表面から空間を設けて防草資材を設置する技術を考案し,開発を進めています(特許出願中)。
農業用排水の水質改善
岡山県南部の児島湖流域は県下最大の農業地帯ですが,都市化に伴って流域内の水質汚濁が長年の問題になっています。そこで,安全安心な農業用水を提供し、農業排水による児島湖の富栄養化を低減することを目標に,植物を活用した環境に優しい水質浄化法を開発しています。
雑草植生による生態系保全
雑草群落は多様な生物の生息空間として様々な生態系の基盤となっています。陸域から水域まで衰退した様々な植生を保全・復元することで,自然界からの生態系サービスの向上を目指します。
イネおよびダイズの光合成・物質生産性改良にむけた研究 |
圃場に生育するイネやダイズを主な対象として,作物の光合成やバイオマス生産にかかわるメカニズムを解明し,よりa生産性の高い作物生産を安定的に実現することを最終目標としています.そのため,光合成の生理的メカニズムの解明,地球温暖化への適応を見据えた新たな栽培体系の提案,およびAIを駆使した作物成長モニタリング技術の開発などを行っています.
個葉光合成能力の向上を目指した研究
葉における光合成は作物成長の原動力です.イネやダイズには数万におよぶ品種・系統が存在しており,それぞれに草丈や食味など“個性”があります.葉の光合成能力(個葉光合成能力)にも大きな違いがあることが知られていますが,その多様性の実態や,メカニズムについては不明な点が多く残されています.
当ユニットは国内の単一研究ユニットとしては最大級の個葉光合成測定設備を有しています.これらを活用し,多数のイネやダイズの品種コレクションを対象に,様々な条件において優れた光合成形質を有する系統の探索や,その収量性の評価,メカニズムの解明を行っています.
圃場を用いた多収品種および栽培法の実証研究
作物の収量決定プロセスは複雑であり,栽培現場における諸課題解決のためには,圃場栽培によってそのプロセスを丁寧に実証していくことが欠かせません.
イネにおいては,日本の土地面積あたり平均収量の1.5~2倍に達する超多収品種を対象として,多収をもたらす生理生態学的メカニズムの解明に取り組んでいます.ダイズにおいては,激甚化する気象災害によって,生産が不安定になることが近年大きな問題となっています.そこで,従来よりも大幅にダイズ作期を前倒し,あるいは後倒しすることで,環境ストレスの軽減と生産の安定化を図る研究を行っています.
AIによる作物生産モニタリング技術の開発
イネやダイズなど大面積で栽培される作物では,農家圃場内,あるいは圃場間での生育ムラや,収量を指標とした多数の品種選抜など,生産性の実測に多大なコストと労力が必要です.
近年著しく進展している人工知能(AI)関連技術は農学においても強力なツールとなり得ます.イネやダイズ群落の写真(デジタル画像)から,非破壊かつ迅速に生産性を推定する手法の開発に取り組んでおり,それを搭載したスマートフォンアプリケーションの開発にも携わっています.
研究業績リスト
【中嶋准教授】
- Nakashima, Y., Suzuki, K., Oki, Y. Relationship between shoot damage and flood tolerance in southern cattail. Journal of Environmental Science for Sustainable Society. 1;12(1):1-8 (2023)
- Inaba, T., Tsujimoto, K., Nakashima, Y. Backwater effect of clogging of aquatic plants at fine-particle screens on inland flooding in Okayama. Water.14: 1-21 (2022)
- 中嶋佳貴・藤井清佳・沖陽子・中田和義:ブラジルチドメグサの物理的防除法の検討および水生動物の生息空間としての実態,農業農村工学会誌,88,899-902 (2021)
- 中嶋佳貴・沖陽子・足立忠司・永井明博・近森秀高:岡山県南部の二級河川前川における自然攪乱に伴う沈水雑草群落の発生動態,農業農村工学会論文集,88,29-37 (2020)
- 中嶋佳貴・沖陽子:重点対策外来種キショウブの異なる刈取処理による耐冠水性の差異,雑草研究,62,223-226 (2017)
- ・中嶋佳貴・沖陽子:特定外来生物ブラジルチドメグサの栄養繁殖特性,日本緑化工学会誌,42,543-549 (2017)
- 中嶋佳貴・沖陽子:都市型ビオトープに発生するヒメガマ及びヨシの適正管理に関与する刈取り方法の検討,日本緑化工学会誌,42,236-239 (2016)
【田中准教授】
- Tanaka, Y., Watanabe, T., Katsura, K., Tsujimoto, Y., Takai, T., Saito, K. et al.: Deep Learning Enables Instant and Versatile Estimation of Rice Yield Using Ground-Based RGB Images. Plant Phenomics. 5, 0073. (2023)
- Nakajima K., Tanaka, Y., Katsura, K., Yamaguchi, T., Watanabe, T., Shiraiwa T.: Biomass estimation of World rice (Oryza sativa L.) core collection based on the convolutional neural network and digital images of canopy. Plant Prod. Sci. 26, 187-196. (2023)
- Taniyoshi, K., Tanaka, Y., Adachi, S., Shiraiwa, T.: Anisohydric characteristics of a rice genotype ‘ARC 11094’ contribute to increased photosynthetic carbon fixation in response to high light. Physiologica Plantarum. 174, e13825. (2022)
- Kondo, R., Tanaka, Y., Shiraiwa, T. Predicting rice (Oryza sativa L.) canopy temperature difference and estimating its environmental response in two rice cultivars, ‘Koshihikari’ and ‘Takanari’, based on a neural network. Plant Prod. Sci. 25, 394-406. (2022)
- Shamim, MJ., Kaga, A., Tanaka, Y., Yamatani, H., Shiraiwa, T.: Analysis of Physiological Variations and Genetic Architecture for Photosynthetic Capacity of Japanese Soybean Germplasm. Front. in Plant Sci. 13, 910527. (2022)
- Tanaka, Y., Taniyoshi, K., Imamura, A., Mukai, R., Sukemura, S., Sakoda, K., Adachi, S.: MIC-100, a new system for high-throughput phenotyping of instantaneous leaf photosynthetic rate in the field. Functional Plant Biology. 49, 496-504. (2022)
- Sakoda, K., Adachi, S., Yamori, W., Tanaka, Y.: Towards improved dynamic photosynthesis in C3 crops by utilizing natural genetic variation. J. Exp. Bot. 73, 3109-3121. (2022)
卒業生・修了生進路
・大学院進学
・国家・地方公務員(行政職,研究職,農業改良普及員),高校教員
・各種コンサルタント(環境,土木),食品メーカー,システムエンジニア,JA職員,農業自営,農業法人社員