防鹿柵の設置はブナの成長低下と土壌微生物の多様性低下を防ぐ~シカの過採食による森林衰退を止める有効な手立てとして期待~

RESEARCH &
PROJECT

防鹿柵の設置はブナの成長低下と土壌微生物の多様性低下を防ぐ~シカの過採食による森林衰退を止める有効な手立てとして期待~

発表のポイント

  • 強度なシカの採食から森の地表部にある植生(下層植生)を保全するため、各地で防鹿柵の設置が進められています。しかし、柵の設置が下層植生以外の生物群集の保全にも役立つかは知見が限られています。
  • 熊本県の白髪岳において、防鹿柵の内外でブナの成長量と土壌微生物群集の多様性を比較しました。その結果、柵外では下層植生の消失と続く土壌侵食によってブナの成長や土壌真菌群集の多様性が低下しているのに対し、柵内ではそのような低下はみられませんでした。
  • 本研究成果は、防鹿柵による下層植生の保全が、その他の生物群集の保全にも有効なことを実証し、今後のシカ採食への対策を考える上で役立つことが期待されます。

 近年、全国的にニホンジカの個体数が増加し、森林生態系を大きく変化させています。強度なシカ採食は、下層植生を減少させ、土壌侵食を加速させます。最近の研究により、これらは樹木衰退や土壌微生物の多様性劣化など、様々な生物群集にも悪影響を及ぼすことが分かってきました。強度なシカ採食への対策として、各地で防鹿柵の設置が進んでいます。しかし、防鹿柵が下層植生以外の生物群集の保全にも役立つかは情報が不足しています。九州大学、宮崎大学、岡山大学からなる研究グループは、熊本県白髪岳のブナ林に設置された防鹿柵の内外で、ブナの成長と土壌微生物相を比較しました。ブナの成長量は、年輪解析を通じて比較し、柵外の個体はシカ採食の激化に伴い成長が低下していたのに対し、柵内の個体ではそのような成長低下は見られませんでした。土壌微生物相については、環境DNA分析を通じて比較し、柵内の土壌は真菌類など一部の微生物群の多様性が高い状態にあることが判明しました。これら柵設置による保全結果は、下層植生が土壌侵食を抑制し、ブナの成長に影響する樹木根系の露出や、土壌微生物に影響する土壌の物理化学特性の変化を抑止した結果であることも分かりました。以上の成果は、防鹿柵の設置が樹木衰退や土壌微生物相の劣化の防止にも有効なことを意味します。ブナの成長に関する研究成果は2024年11月1日に国際学術誌「Journal of Environment Management」で、土壌微生物相に関する研究成果は2024年5月30日に国際学術誌「Forest Ecology and Management」で公開されました。

<詳しい研究内容について>
防鹿柵の設置はブナの成長低下と土壌微生物の多様性低下を防ぐ~シカの過採食による森林衰退を止める有効な手立てとして期待~

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