街の片隅の花暦:都市で生まれる複雑な環境が花の咲く季節を多様化させる?
◆発表のポイント
- 植物の開花フェノロジー(開花開始日や開花期間等のスケジュール)は、気候変動や都市開発等の環境変化の影響を強く受けることが知られています。
- 都市化された景観や局所的な生育環境の違いが在来一年草ツユクサの開花フェノロジーに与える影響を明らかにするために、農村域と都市域にそれぞれ2つの計4つの調査エリアを設定し、そこに生育する約250のツユクサ集団を対象に、週一回の開花量調査を3年間継続して行いました。
- 都市環境下では集団間の開花同調性が低い(各集団の開花時期がズレやすい)ことを明らかにし、都市化が植物の存続可能性を低下させる新たなメカニズムとして、‘開花フェノロジーの変化を介した時間的な分断化’が働きうることを発見しました。
岡山大学大学院環境生命科学研究科博士前期課程の藤原日向大学院生(研究当時。現在、株式会社両備システムズ)、同大大学院環境生命自然科学研究科博士前期課程の山口寛登大学院生、同大学術研究院環境生命自然科学学域(工)の中田和義教授(保全生態学)、勝原光希助教(植物生態学)は、農村域から都市域の幅広い環境に生育する在来一年草ツユクサの開花フェノロジーを調査し、都市域では農村域と比較して集団がより低密度に分布するだけでなく、集団同士の開花の同調性が低く、送粉者昆虫によって運ばれる花粉が制限されていることを発見しました。本研究成果は、2025年9月22日13:01(日本時間)に英科学雑誌「Journal of Applied Ecology」に掲載されます。
これまでの研究では、都市環境が在来植物集団の存続可能性を低下させる要因として、道路や建物によって集団間で花粉や種子の交流が妨げられる“空間的な分断化”の重要性がたびたび指摘されてきました。本研究の結果は、都市環境下で生まれる多様な局所的環境(側溝の中や公園、残存する農地等)に応じた開花タイミングの多様化を通して集団間の開花タイミングにズレが生じる“時間的な分断化”が、植物の繁殖成功や存続可能性に影響しうることを示唆する初めての報告です。本研究成果は、自然と調和した持続可能な都市生態系の構築のための重要な知見となることが期待されます。