生き急ぐか? ゆっくり生きるか? ~特殊害虫ミバエで実証した生物の分布を変える生き方の速さ~
◆発表のポイント
- 生物の分布や発育の速さを決める指標として発育ゼロ点と有効積算温度は主に病害虫防除の重要な指標とされてきました。これは変温動物である昆虫などを異なる温度のもとで飼育し成長を比べることで、病害虫がどこまで分布を広げるのか、あるいはいつどこで害虫が発生するのかを見極める指標として、病害虫管理に欠かせない指標です。
- これらの指標は従来は種ごとに固有と考えられてきましたが、遺伝的差異により集団内でも変動がみられることはわかっていました。しかし、これらの指標がどのような選択圧によって形成されるのかは研究が進んでいませんでした。
- 本研究では、特殊害虫に指定されたウリミバエ Zeugodacus cucurbitae の生活史形質に対する人為選択が進化的変化を引き起こすことで、これらの指標も世代を経て変化することを初めて示しました。生き方の速さ(=発育速度)と繁殖する齢に選択がかかると生物の分布域が拡大する、言い換えると進化によって変わる生物の分布を決める指標を見つけた研究です。
岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の宮竹貴久教授は、東京大学 総合文化研究科 広域科学専攻 広域システム科学系の松村健太郎助教とともに、日本ではすでに根絶され、特殊害虫に指定されているウリミバエを材料として、発育期間の長短と、繁殖開始齢のタイミングに人為的に選抜をかけた系統から卵を採集して、5つの異なる温度で幼虫期間と発育期間を測定しました。その結果、幼虫期間の発育ゼロ点と発育期間の有効積算温度は発育期間の長い集団と短い集団で有意な違いが見られました。また繁殖するタイミングが異なる集団間でも有効積算温度に有意な差がありました。生活史形質に選択圧が働くと、世代の経過とともにこれらの指標が変化することを初めて実証できました。この研究成果は10月6日午後1時(日本時間)、Wileyのオランダ国際昆虫学会誌「Entomologia Experimentalis et Applicata」にオンライン掲載されます。
<詳しい研究内容について>
生き急ぐか? ゆっくり生きるか? ~特殊害虫ミバエで実証した生物の分布を変える生き方の速さ~